サプライチェーンを透明化するProvenanceのブロックチェーンプラットフォーム

商品にはそれぞれ原産国や生産国の表記があるが、エンドユーザが商品を手にするまでに複数の国を経由して製造されている場合もあるため消費者には製造また流通工程が複雑で見えづらい。この問題に対し有効とされているのがブロックチェーンだ。


ブロックチェーンはブロックに詳細な情報を保存することができ、情報の改変が難しいことから重要なデータを保存し閲覧することが可能である。

ブロックチェーンというと遠い世界の技術のように思えるが、実はもう身近で利用できるようになっている。イギリスのスタートアップ企業である「Provenance(プロヴェナンス)」はサプライチェーン全体の情報をブロックチェーンに記録・保存し、情報の追跡を容易にするプラットフォームを開発した。以下ではProvenanceのプラットフォームについて解説していく。

Provenanceとは

Provenanceはイギリス・ロンドンに本社を構えるブロックチェーンスタートアップ企業で、2013年に技術デザイナー・エンジニアのJessi Bakerによって設立された。主なサービスは、購入できる全てのモノの出所をブロックチェーン技術によって管理するプラットフォームを提供することだ。

Provenanceは英語で「由来・起源」という意味がある。同社のサービスもこの単語の意味と同じようにモノにまつわる原産地や生産地、またサプライチェーン全体をブロックチェーンに記録することで情報を「見える化」する。

スマートフォンの読み取り機で商品に貼付けられたコードを読み込むと、生産地やどのようなルートで小売店に並んでいるのか確認することができる。利用するためには同社のフォームから登録する必要があるが、このプラットフォームが多くの人に利用されるようになれば身近な商品の正しい情報を知る機会は増えていくはずである。現在では約200社の企業がProvenanceのプラットフォームを利用している。

全ての商品の原産地や流通経路をトラッキング可能

イギリスに在住している800人を対象に行われた調査では、買い物の際10人に8人の人が原産地を確認すると回答している。

特に食べ物は直接健康に関わるため、正確な情報を知りたいと思うのは消費者として当然だろう。近年では個人の思想や信条に基づいた食べ物を選ぶ人が多くなっていることもあり、「食べ物がどこで作られて、どの薬品が使用されているか、また働く人が公正な環境下で労働をしているか、どのような流通経路をたどっているのか」という情報を確認したうえで消費活動を行なっている人も増えている。

Provenanceのプラットフォームを用いることで生産者は正しい情報を発信することができ、消費者は生産者の情報や流通経路を確認することができる。商品の表記は(出荷前の検査が必要なものもあるが)小売業者や流通業者のモラルに頼る側面もあるため、時に商品表記偽装される問題が取りざたされることがある。Provenanceのプラットフォームはこの問題をなくすことにつながるのではないかと考えられている。

ブロックチェーンを活用したファッションブランドも誕生

Forbesの記事では、ロンドンを拠点にしているチェコ人デザイナーのMartina Spetlovaがファッション業界で初めてProvenanceのブロックチェーンプラットフォームを利用していると報じられた。Provenanceプラットフォームの活用方法として、消費者が服の洗濯表示タグについているコードを読み取ることで流通経路を確認することができるようにした。

Spetlova氏はファッションサプライチェーンの複雑さについて「小規模もしくは仕事を始めたばかりのデザイナーにとってはそう難しくないかもしれませんが、多くのサプライヤを抱えるデザイナーにとって、(サプライチェーンの透明性を)適用させるためには大企業で大きな変化を加えない限り非常に難しいです」と説明している。

Spetlava氏のブランドではより魅力的なストーリーをブランドに与えるために過去数年間に渡って徐々に変更を加えてきた。このブランドではクロムフリーの革を使用しているが、製革過程においては毒性がより少ない方法で作られているため労働者の労働環境や水質の保護に役立つ。この取り組みはトルコ・イスタンブールで行われている難民を支援するための小規模なNGOプロジェクトで、難民の職人たちが手作業で行っている。彼女はリサイクルされたペットボトルから作られた生地で作品を作ったり、より選択的な結果としてサプライヤと製造業者の数をわずか5つに絞り込むなどして新しい挑戦を実践している。

Provenanceを利用して生産者・小売業者・消費者が受け取るメリット

Provenanceのプラットフォームを用いることで一体どのようなメリットがもたらされるのだろうか。生産者・小売業者・消費者に分けると、次のような点が挙げられる。

■ 生産者

生産者がProvenanceに自分の作った商品を登録したい場合、同社のHP登録後に自分のプロフィール入力を完成させる。その後小売業者に向けて販売したい商品の情報について詳細な情報を入力していく。生産者情報と商品登録をすることで、小売業者が商品を見つけやすくなる。

■ 小売業者

小売業者は積極的に販売したいターゲットに向けた商品をプラットフォーム上で探すことができる。登録された生産者情報と商品登録から商品の履歴を確認することが可能なため、小売業者は仕入れを行う際に商品に関して詳しく調査することができる。

■ 消費者

消費者は商品に貼り付けされているコードをスマホで読み取ることで商品の生産地や生産者、流通経路などの情報を正確に確認することができる。

このように、正しい情報を得るための環境を構築することで生産者と小売業者、消費者にプラスの影響がもたらされる。

流通経路の透明性はブランドの信頼度アップにつながる

生産者や小売業者が正しい情報を消費者に向けて発信することはブランドに対しての信頼性を高めることにつながる。逆に、誤った情報を消費者に与えることは一瞬でブランドの信頼性を損なう。一旦ゼロになった信頼を取り戻すことは非常に長い年月と努力を必要だ。

ProvenanceのHP上に『Every product has a story.(全ての商品にストーリーがある)』という言葉があるように、この世にある全てのものには生産者の商品に対する信念があり、消費者の手に渡るまでに多くの過程を経る。Provenanceのプラットフォームは消費者が商品を選ぶまでの語り手となり、取引における信頼関係構築のためにこれから活用されていくであろう。