金融業界でのAI活用状況とは?JPモルガンの例から見るAI活用
また、投資部門においてもLOXMというAIの活用によってリアルタイムでの最適価格を分析しアドバイスをおこなう最新技術も導入している。
またこれとは別に、JPモルガンは来年から法人顧客の質問に対してAIチャットボットが返答を行うサービスを導入しようとしている。この仮想アシスタントは、質問に対して関連するレコメンデーションを提示することで顧客の問い合わせに素早く対応するという目的がある。
金融業界においてAIを活用することでどのような効果が見られるのだろうか。今回はJPモルガンの例を挙げて金融業界におけるAIの活用について述べていきたい。
JPモルガンの「COIN」は文書を迅速に精査
JPモルガンが導入している「COIN」は文書を精査する際に役立つ。
COINは銀行が使用しているプライベートクラウドネットワークによって駆動している機械学習システム上で動作する。
COINの最大の特徴は、人間の弁護士が契約書などの文書の精査をするためにかける36万時間もの時間を短縮し、わずか数秒で完了させることができる。また文書の審査にかかる時間を短縮するだけではなく、融資サービスにおけるミスを減少させることにも役立つ。融資サービスで発生するミスはヒューマンエラーによるものが多く、COINを用いることによってこのエラーの発生件数を減らすことができる。
COINはJPMorganが立ち上げた最新のボットで、従業員の電子メールを解析し、ソフトウェアシステムへのアクセスを許可し、パスワードをリセットするなどの一般的なIT要求を処理する技術も使用している。将来的には、新しい収益源を特定することや、費用の削減、またリスクを軽減するためにボットを引き続き使用する予定である。
過去数十億件のデータから投資予測を行う「LOXM」
JPモルガンは投資分野でもAIの活用を行なっている。「LOXM」と呼ばれている機能は、シミュレーションと実際の取引を含め過去数十億件の膨大な取引から学習した手引きを活用して、市場価格を動かすことなく大規模な株式をオフロードするのに最適な方法を導き出すなどして最速かつ最適な価格で顧客のオーダーを実行する。
このような取引の実行はかつては人力によってその精度が高める努力がされてきたが、今ではAIの力を借りてリアルタイムの取引を大規模かつ効率的なスケールで行うことができる。LOXMは2017年Q1にヨーロッパのJPモルガンにてトライアルが実行され、その成果はベンチマークより大幅に優れているという結果となった。
JPモルガンは収入によるマーケットシェアを見ると世界最大の投資銀行である(2017年12月時点)。
AIを利用したリアルタイムの投資予測は同社の今後の成長を維持するためにも欠かせない。
同じようにAIを投資分野に活用している金融機関として例に挙げられるのはスイスに本社のあるUBSで、クライアントのポストトレード割当要求に対処するために最近AIを導入したことにより、タスクごとに人的労力を45分相当削減することができると報じられている。
他の投資銀行もAIやオートメーション、ロボットを使用してコストを削減しつつ、最大限の利益を得られるようにこれらの最新技術を導入しようとしている。
法人向けに開発が進んでいるAIチャットボット
同社は新しい技術への投資を積極的に行なっているが、AIをはじめとしたバーチャルアシスタント関する投資は年間108億ドルの技術予算のうち40%の投資が行なわれているのではないかと言われている。
JPモルガンが現在取り組んでいるAIチャットボットは、ユーザからどのような質問が寄せられたのかデータとして蓄積し、行動をパターン化して学習していく。最終的には質問に関してのレコメンドを表示することを目指している。例えば、支払いが遅れている顧客に対して電話をかけるなどといったことである。この機能はデスクトップパソコンだけではなく、モバイルデバイスや音声検索デバイスでも対応できるように計画が進められているそうだ。
Bank of AmericaのAIチャットボット「Erica」
Bank of Americaは2016年に「Erica(エリカ)」というモバイルデバイス向けのAIチャットボットを発表している。Ericaは24時間365日稼働しているAIチャットボットで、例えば以下のような音声もしくはテキストによる質問に対して予測分析と自然言語解析技術を駆使したAIボットが自動で返信を行う。
・残高確認
・請求書と支払いスケジュールを閲覧
・口座間での送金
・過去の取引データを閲覧
・デビットカードをロック/ロック解除する
・友人に送金する
Ericaは2018年3月頃から約2500万人のアクティブユーザに向けてサービスが開始された。開始後2ヶ月で100万人の利用が確認され、今後も利用者は増加すると見られている。
フィンテックでAIボットを導入するメリット
近年利用者が増えているフィンテックスタートアップのサービスでは、利用者からの問い合わせに対して迅速に回答するためにチャット形式ののカスタマーサポートを提供しているところがほとんどである。しかし有人のカスタマーサービスは人件費がかかる上に営業日や営業時間の縛りがあるため、顧客の要求に柔軟に対応できない。
一方、問い合わせ対応をAIチャットボットである程度自動化できれば、単純な問い合わせに割く時間と件数を大幅に減らすことができ、人間はより複雑な問い合わせの対応にのみ集中できる。ボットは休み続けることなく顧客の問い合わせに回答するため、頼れるパートナーとして活用することができる。
JPモルガンがAIチャットボットを導入する目的
JPモルガンのAIチャットボットの活用は、単に質問に回答することが目的だけではなくスムーズな問い合わせ処理を行うことによるさらなるビジネスの促進を目的としている。
JPモルガンではサプライヤからの送金や巨大企業の合併における資金移動や企業の給与支払いに至るまで、様々な取引を含めると毎日平均5兆ドルもの金額を処理している。
膨大な金額と件数をすばやく処理しなければならないからこそ、単純なルーティンワークはロボットに任せて、より重要な意思決定をスムーズに進めて行くことで顧客とJPモルガン双方にとって最良の結果を導くことを狙っている。
・CNBC
https://www.cnbc.com/2018/06/20/jp-morgan-is-unleashing-artificial-intelligence-on-treasury-services.html
・Financial Times
https://www.ft.com/content/16b8ffb6-7161-11e7-aca6-c6bd07df1a3c
アイキャッチ画像:Pixabay(フリー素材)
https://pixabay.com/ja/whatsapp%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%82%B9-%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA-%E4%BA%BA%E9%80%A0%E4%BA%BA%E9%96%93-%E9%9B%BB%E8%A9%B1-%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%88-1660652/