世界の「ホームIoT」事情とCATV局のICTビジネス

ブロードバンドと無線ネットーワーク機器を年間3600万台規模で開発・導入する世界有数のODM専業メーカーであるサーコム(本社・台湾台北市)は今、注目されるICT市場向けに顧客のニーズに対応した先端技術の開発にも力を入れている。日本法人のサーコム・ジャパンは日本のメディア市場において、特にCATV局の事業性に関心を持っているという。このほど、同社代表取締役社長の伊藤信久氏に世界のICT市場と日本におけるCATV市場のビジネス課題について話を伺わせてもらった。

地域ごとの生活課題を知っているのはケーブルテレビ局だけ

現在、国内のコンシューマ市場は少子高齢化などの人口動態から所得、世帯構成、技術の面において、デジタル化によってこれまでになく大きな変化が起こっている。CATV市場においても例外なく影響を受けている現状にある。サーコム・ジャパン社長・伊藤氏はこのような状況にあるCATV市場について率直な意見を述べた。

「客観的な立場で日頃からCATV局の皆様と対話を進めています。感心したのは地域ごとに努力をされていること。リテンション(顧客維持)を目的に、地域に根ざしたサービスを工夫されています。あるCATV局さんはフェイスブックやLINEの使い方を教えるSNS教室を開き、行列ができるほどの人気ぶりだと聞きました。こうした様々なかたちで地域とコミュニケーションされていることを知りました。」

国内世代増減
国内世帯人員別一般世帯数

つまり、伊藤氏はCATV局の可能性は地域ビジネスにあると指摘する。

「CATV局は既契約者とすでに整備されたインフラをもっています。また、地域の現状をどの事業者よりも把握していますから、地域における生活課題についても掴んでいます。これらこそ、今後のビジネスに活かすべきです。例えば、大手キャリアがサービス展開を行う場合、これまではマスマーケットを把握していれば良かったのですが、今後5年間に起こるコンシューマ市場変動(人口動態、世帯構成変化、所得変化、技術革新)による地域ごとの生活課題を知っているCATV局は、それらを解決できるサービスを考え出すことができます。バリューを持ったサービス展開は次のビジネスに繋げることができます。」

世界は「ホームIoT」サービスが急速に広がっている

世界は「ホームIoT」サービスが急速に広がっている

Stategy Analytics 社 2017 年調査

なかでも、地域生活課題を解決するサービスとしてICTが注目されている。米国市場は日本市場より約7年先行し、モニタリングや安心・安全・快適を実現するIoT・スマートホームサービスが年々普及している状況にあるという。AT&T、COMCAST社など大手/テレコム・回線事業者、CATV事業者やADT社(セキュリティサービス会社)が次々とサービスインしている。海外のスマートホーム事情について詳しい伊藤氏はこうした状況についても説明した。

またアジアにおいても「ホームIoT」の導入が進んでいるのという。サーコム本社はブロードバンド、無線ネットワーク機器、IoTデバイスを年間3600万台規模で開発・製造する世界有数のODM専業メーカーとして市場をけん引しており、本社は台湾台北市にあることから世界市場はもとより、アジア市場において強いネットワーク力を持つ。

「韓国は進んでいます。1500万世帯のうち、100万世帯が「ホームIoT」を導入しています。スマートスピーカーひとつで、様々なサービスが連動しています。FTTHインフラが急速に普及する中国向けには、弊社開発の光向けのルータを一昨年より年間で1500万台以上出荷しています。」

センサーの活用がカギ、小規模なサービスに注目するべき

欧米市場は安心・安全・見守りサービスが中心となって広がり、安価なIPカメラを活用したモニタリングサービスが好評である一方、セキュリティ会社とタイアップした駆けつけ付帯サービスニーズが少ない。国内はこれと逆でIPカメラでのモニタリングサービスはそれほどでもありません。また、欧米市場と比較すると、既にリリースされているスマートホームサービスは、まだ価格が高く、SecurityとSafety両サービスの品揃えが不十分です。つまり、選択肢がまだ用意できないなのが現状です。こうしたなか、今後どのような展開が予想されるのだろうか。 「人口動態の一つである高齢化社会向けサービスには、センサーの活用が今後のカギとなっていくでしょう。センサーによって健康に関したバイタルデータを蓄積していくことで、一人世帯の安心に繋がります。またセンサー管理は、電気代の節約や日常の買い物にも応用することができます。こういったモニタリングのサービスは長い期間にわたって必要とされるサービスです。」

サーコム・ジャパン社長・伊藤氏

では、CATV局ならではのサービス展開にどのようなものが考えられるのだろうか。伊藤氏は話しを続けた。 「地域生活課題解決型の小規模なサービスにも目を向けるべきだと思います。例えば、長野のCATV局を訪問した際は、農家の方が高額な林檎を狙った林檎泥棒に悩まされているという生活課題を聞きました。CATV局が「カメラセンサー」によるモニタリングサービスを提供することで、こうした問題も解決に繋げていくことができるのではないでしょうか。地域特有のサービス展開はリテンション効果にも繋がっていくはずです。デジタルプラットフォームのサービス展開は農協など、既得権を持っている組織を通さずとも行うことができることが大きな利点にあります。日本の場合、ダイレクトにコンシューマ向けにサービスが広がるアメリカとは異なり、特に新しいサービスはBtoBから始まり、コストが落ちてから、コンシューマ向けのサービスに広がっていく傾向があります。データセンターを持っているケーブルテレビが参入できるサービスは多岐にわたっていると思います。」

キャスティングボード的な位置づけをそれぞれのCATV局が持つことが重要

IoT・スマートホーム他、新技術への取り組み

2018年2月に実施した全国CATV事業者131名を対象としたアンケート「2018 CATVイノベーションレポート」より

最後にCATV局が、今後の歩むべき未来像についても語った。

「CATV局の一部の方は明るく捉えていらっしゃると感じています。けれども、多くの方はトーンダウンしています。そんな現状だからこそ、今がチャンス。皆が灯を照らし始めれば、明るくなります。暗い時こそチャンスです。CATV局が活性化することで、我々もビジネスが回っていきます。エコシステムを構築していくことができるポテンシャルは十分にあります。小さいサービスに気づき、工夫次第で、キャスティングボード的な位置付けをそれぞれのCATV局が持つことが重要です。最大手のジェイコムさんは都市部を対象としたサービスが中心のように見えますので、自分たちの地域の特徴に適したサービスを探し出すことで展望が広がるはずです。決して難しい話ではないと思っています。」

CATV事業者が新たなサービス展開を進める上で様々な課題もある。「どのようなサービスが良いのか判断できない」「いままでのコンテンツ事業以外の新サービスを展開する必要性を感じない」「自社だけでは大きな投資になってしまうのでは」といった声が聞かれる。だからこそ、伊藤氏は「コンシューマ市場変動の動きを理解し、見方を変えてみる」ことを指南する。具体的には「新サービスを既契約者全体のどのくらいが必要とし、どのくらい収益があるのか」という今までの判断基準から「自局の既契約者にどういった生活課題があり、それを解決する新サービスはどういったものがあるのか」という判断基準に切り替えること。また地域生活課題を解決する新サービス展開は今後5年で起こる国内コンシューマ市場変動へ対応し、事業成長・維持するための必要条件という理解をもって、素早い行動も必須だ。さらに、「投資コストを抑えたスモールスタート仮説検証」を持つこともカギになる。地域生活課題を理解できるのはCATV事業者であることを自負しながら、新サービスを検討することが大事になってきそうだ。

サーコムは、ブロードバンド、無線ネットワーク機器、IoT デバイスを年間 3,600万台規模で開発・製造する世界有数の ODM 専業メーカーです。本社は台湾台北市にあり、北米、欧州、中国、インド、アジア太平洋地域市場へグローバルなビジネス展開を行っています。