オランダ発、世界で初めて開発されたビートと亜麻で作られた究極のエコカー『Lina』とは?
車体にはビート砂糖由来の樹脂が使われており、この樹脂を覆うシートにはオランダで栽培された亜麻が使用されている。ホイールとブレーキ、サスペンションといった動力系のハードウェアは自然由来の素材ではできていないと発表されているが、逆にほとんどが自然由来の素材でできているということが驚きである。
このLinaはオランダのアイントホーフェン工科大学の学生らで構成されるTU/エコモーティブチームによって開発がおこなわれている。世界では既存の自動車製造会社による自動運転や電気自動車の開発等最新技術のニュースがひっきりなしに報じられているが、エコカーのLinaの登場は別の意味で衝撃的である。まだ開発・実験段階であるが、ここまでエコにこだわった車の研究開発は世界初だ。非常に気になるLinaについて、もう少し詳しく見ていきたい。
Linaのスペック
http://compositesmanufacturingmagazine.com/2017/05/dutch-students-present-lina-worlds-first-biocomposite-car/
Linaは4人乗りの自動車で、1時間に50マイル(約80km)を走行することができる。
Linaの車体の重さはわずか310kgしかない。一般的な車の重さは、一番軽い軽自動車であっても約830kgの重さがありほとんどは1t以上の重さがあるので、これと比較するとLinaが非常に軽量であることがわかるだろう。車は軽ければ良いというものではないが、それでもこの軽さは驚きである。車を軽量化することによってエネルギー消費を抑えるという点で良いのかもしれない。
ドアにはNear Field Communication(NFC)技術が実装されており、スマートフォンやキーによってユーザーを認識することができる。これにより、カーシェアリングにも適しているとLina開発チームメンバーが語っている。
http://www.evolving-science.com/environment-smart-cities/biodegradable-car-hits-roads-netherlands-00315
Linaには植物由来の素材を用いられているが、車体はファイバーグラスと同じ強度と重量比を持つ。開発チームはシャーシにバイオ複合材料とバイオプラスティックのコンビネーションを90%以上用いている。ハニカム構造の有機プラスティック(PLA樹脂)がコア素材として用いられており、材料はビート砂糖(甜菜糖)から製造されている。車体に用いられている素材はこのPLA樹脂と亜麻から作られた素材の二重構造になっており、亜麻の素材によってサンドイッチのようにPLA樹脂を挟むことで強度を高めている。車体の素材は通常車の製造に用いられる金属とは異なるため曲げることはできないところが難しいところだ。
以下の動画はLinaがアイントホーフェン大学で披露された時の動画である。こちらの動画を見ても分かる通り、動作音は非常に少なくスムーズな走行をおこなっている。車の内装はプロトタイプということもあり必要最低限の荒削りなデザインではあるが、実用化された場合さらに見た目が良くなるのかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=K6b6dZWPhxU
Linaの開発目的
Linaの開発には、大気汚染を減らすことや気候変化の問題に取り組むという目的のためにおこなわれている。Linaの開発チームは、エネルギー効率が良い車を作るだけではなく、サスティナビリティ(持続可能性)も同時に実現する車の製造を目指している。
TU/エコモーティブチームのマネジャーであるQuinten Oostvogel氏は現在自動車の製造に利用されている素材について次のように語っている。
「問題は、今日の自動車がより効率的になっているにもかかわらず、生産されている方法がそうではないということです。自動車メーカーは、カーボンファイバーやアルミニウムなどの軽い材料をより頻繁に使用しています。これは、車がより軽く効率的になることを意味するためです。しかし欠点として、これらの材料が製造に極端な量のエネルギーを必要とすることです。例えば、炭素繊維の製造には、鋼を製造するよりも5倍のエネルギーが必要です。」
https://www.dutchtechnologyweek.com/en/news/tue-students-unveil-world%E2%80%99s-first-bio-based-car
Linaは従来の車を製造するためのエネルギーより比較的低いエネルギーで製造を行うことが可能と述べている。製造段階からエネルギー消費を抑えることができる。
気になる車体に用いられている素材の強度
従来の車の製造に用いられるアルミやカーボン素材ではなく、植物由来の材料を用いている点が非常にユニークである。アルミやカーボン素材は鉄鋼を加工するよりも多くのエネルギーを必要とする。一方、Linaに用いられている素材は従来の車輌に用いられているような金属の加工に多大なエネルギーを必要とすることがない。Linaは製造工程においても二酸化炭素を極力排出しない製造方法が意識されている。さらに、植物由来の車体であるため不要になった場合リサイクルもおこなうことができる。製造工程から廃棄の段階までが環境に配慮されている。
気になる車体の強度の程度であるが、亜麻の繊維を横方向に重ねて圧縮した時にアルミやカーボン素材と同程度の強度になることから、車体に使用できる素材として活用することができる。Linaを構成する素材のひとつとして使われている亜麻(学術名:Linum usitatissimum)は昔から服の繊維や食用油に加工され、私たちの生活に密接に関わってきた。ちなみに、亜麻は勘違いされがちだが大麻のことではない。亜麻やビートは栽培によって収穫をおこなうことができるため、金属のように採取のしすぎで材料が枯渇することもない。
Linaの実用化については未定
2017年後半には、オランダの交通局によってLinaの運転をテストする予定と報じられているが、その後の結果についてはまだ報じられていない。ロイター通信が2017年8月に報じた記事では、Linaはクラッシュテストにはまだ合格していないと報じられている。
しかし、オランダの交通局からは道路での走行に適した4人乗りの車として認定を受けており、ナンバープレートをもらうことによって市内を走行することができるようだ。Linaが商用利用として将来生産される可能性は低いと見られているが、Linaの研究開発は世界初の試みであり、より環境に優しくリサイクルが可能なエコカーの新たな一ページを記録したことは間違いないだろう。
Linaの開発を機に、地球に優しいエコカーの開発がさらに進んでいく可能性もあるかもしれない。
・アイントホーフェン大学
https://www.tue.nl/en/university/news-and-press/news/17-05-2017-students-present-the-worlds-first-bio-composite-car-during-dutch-technology-week/#top
・Reuters, Dutch students grow their own biodegradable car
https://uk.reuters.com/article/us-tech-netherlands-biocomposite-car/dutch-students-grow-their-own-biodegradable-car-idUKKBN1AO1BL