ドイツ・テレコムのNB-IoT欧州・米国展開の状況とは?日本のNB-IoT展開状況

ドイツ・ボンに本社を置くDeutsche Telecom(ドイチェ・テレコム、以下テレコム)。ヨーロッパ域内では省略して『Telecom』と呼ばれているが、欧州で最大規模のネットワークを誇る電気通信事業者だ。

テレコムは2017年末にNarrowband-IoT (以下、NB-IoT)のサービス展開をアメリカも含めた8つの地域でおこなうことを発表した。具体的に述べると、対象国はポーランド・スロバキア・チェコ・ハンガリー・ギリシャ・ドイツ・オランダ・アメリカだ。ポーランド・スロバキア・チェコ・ハンガリー・ギリシャの5カ国においては2017年末にサービスが開始され、2018年末には各国内のさらに多くの都市や地域にサービスを拡大する予定である。

2017年の初めにはドイツとオランダでのサービス展開を開始。ドイツの隣国オーストリアではNB-IoTを展開するのはテレコムの子会社であるT-Mobileで、2018年にはオーストリア国内の複数の都市にサービスを広げていくことも併せて発表された。

ドイツ国内では約600の地域また都市においてNB-IoTが利用可能で、現在テレコムが提供しているサービスを200社がトライアル中だ。ドイツは近年製造業と輸出が好調のため、NB-IoTの利用が広がっていくことは大きな意味を持つだろう。以下では、NB-IoTについての解説や、日本でのNB-IoTに関するニュースについて述べていきたい。

参考:Mobile World Eye, DT targets nationwide NB-IoT launches across Europe
https://www.mobileworldlive.com/featured-content/top-three/dt-targets-nationwide-nb-iot-launches-across-europe/

NB-IoTとは?

ところで私たちが普段の生活において用いる通信といえば、スマホやパソコンでインターネットを使うときだが、その際は3G/LTE/5G通信や無線LAN通信、Bluetooth通信を通して利用している。これらの通信は広い周波数帯域で通信がおこなわれ、おおよそ5MHz〜20MHzの周波数帯域幅で通信がおこなわれている。

一方、NB-IoTとは狭帯域通信のことで、LTE通信の一種。周波数帯域幅は200kHzと狭い周波数帯のため、IoT機器の接続に向いている。その理由としてあげられるのは、通信コストを低く抑えることができるためだ。センサーやオートメーション機器など常時通信ネットワークと接続する必要があるもので、かつ通信コストを抑えたい場合に接続することでコストを低くすることができる。

NB-IoTは、3GPP※に準拠した低電力ワイドエリア(Low Power Wide Area, LPWA)技術によってライセンスを受けたスペクトルを使用し、3Gや4G接続と共存することができる。LPWAとは、低コスト・低消費電力で広範囲をカバーすることのできるネットワーク通信を指している。屋内・地下であってもネットワークにつなげることができため、様々なモノを通信ネットワークにつなげることが可能だ。

※3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)...世界の標準化団体で構成され、3G, LTE, LTE Advanced, 5Gなどの標準仕様の策定・規格化の検討をおこなうプロジェクト。

T-MobileがアメリカでCat-Mを展開予定

SDxCentralの記事によると、「T-MobileはNB-IoTの整備が完了した後、CAT-Mネットワークの構築をおこなうと発表した」と述べている。

参考:SDxCentral 、Deutsche Telekom Pushes NB-IoT in Europe and U.S.
https://www.sdxcentral.com/articles/news/deutsche-telekom-pushes-nb-iot-europe-u-s/2018/01/

CAT-M(LTE-M)はNB-IoTとは別物で、VerizonとAT&Tというアメリカの通信事業者が展開している無線通信技術だ。つまり、NB-IoTのネットワーク構築が完了したあと、これらの競合他社である通信事業者が展開しているサービス市場に参入するということだ。

T-MobileはVerizon, AT&Tと比較すると通信速度の面で優れており、もしT-Mobileがこの市場に参入するのであれば非常に興味深い。

モバイル・ネットワークのパフォーマンスについて測定をおこなうOpen Signalという企業の調査では、2017年におこなわれたアメリカのメジャーな4つの通信企業の比較を発表した。Open Signalのレポートによると、AT&TとVerizonのネットワーク通信は利用者の通信消費量が増大するとデータ通信が著しく低下する点に触れ、T-Mobileの3G,4Gダウンロードスピード、4Gの有効性、3Gのレイテンシー、またトータルのダウンロードスピードが優れていたため、各項目で良い評価をおこなっている。

ドイツ・テレコムのNB-IoT欧州・米国展開の状況とは?日本のNB-IoT展開状況

T-Mobileの評価が良いことから、CAT-Mのネットワーク構築ももしかしたらうまくいくのかもしれない。Nasdaqの記事によると、T-Mobile USは2017年8月中旬から600MHzのローバンド・スペクトラムをLTEで導入する件についても述べており、同社のIoTに対する努力を高める可能性があると述べている。この600MHzの帯域のLTEは、ワイオミング州のシャイニーという地域において世界で初めて適用されるようである。T-Mobileの今後の動きはアメリカ国内でも注目を浴びることだろう。

参考:Nasdaq、T-Mobile US (TMUS) to Deploy NB-IoT and LTE Cat-M Network
http://www.nasdaq.com/article/t-mobile-us-tmus-to-deploy-nb-iot-and-lte-cat-m-network-cm844600

日本でもLTE-MやNB-IoT展開のための技術協業が進む

日本で最近報じられたNB-IoTに関するニュースは、ソフトバンク株式会社とシーカンス・コミュニケーションズの技術協業がある。

Business Wireの記事の中では、今回の技術協業に関してこのように説明されている。

両社はシーカンスのモナーク(Monarch)LTE-M/NB-IoTプラットフォームとソフトバンクのネットワーク設備との相互運用性試験を実施しており、デバイスレベルの試験プロセスを合理化するよう設計したLwM2M*技術の専用実装技術を開発しています。これはソフトバンクのネットワーク上における新たなIoTデバイスの展開を促進するものとなります。

出典:Business Wire, シーカンス、日本でLTE-M/NB-IoT技術の導入を促進すべくソフトバンクとの協業を発表
https://www.businesswire.com/news/home/20180124005462/ja/

また、東芝と中国のスマホメーカー・ファーウェイもNB-IoTの活用に向けて技術協業をおこなっている。

今回の協業では、東芝IoTアーキテクチャー「SPINEX™」上に、ファーウェイの高信頼性や省電力・広カバレッジエリアを特長とするNB-IoTソリューションを適用することで、電波が届きにくく、商用電源の確保が難しい工場屋内における機器の遠隔監視を実現するスマートファクトリーソリューションを目指します。

出典:東芝デジタルソリューションズ、東芝デジタルソリューションズとファーウェイ、NB-IoTのスマートファクトリー分野での活用に向けて協業
~ ロンドンで、世界各国のエコシステムパートナーに共同ソリューションを披露 ~
http://www.toshiba-sol.co.jp/news/detail/20171129.htm

日本では、モノと社会がスマートにつながるIoT戦略である「ソサエティ5.0」を政府が発表している。これからサイバー空間とフィジカル空間のギャップを埋め、便利かつスマートな社会を構築するためにこれまでにも増してモノとヒトとがIoTを活用することによってつながる社会を目指す。

そのためには今回取り上げたようなNB-IoTやLTE-M(CAT-M)の技術開発や企業がこれを用いることが必要になってくるだろう。IoTの発展のためには、モノがつながるための通信技術の整備も重要な要素となるため、定期的に最新技術についてチェックしたいところである。