よりリアルに。五感を刺激する
VR体験『Sensiks.(センスィクス)』

五感でVRを体験したことがあるだろうか。 VRは視覚と聴覚を刺激することで擬似現実を体験できるが、それ以外の感覚に刺激を与えることに着目したスタートアップ企業がある。

五感とは述べたが、厳密には味覚以外の五感を刺激することで仮想現実を体験することができる。つまり、視覚・聴覚・嗅覚・触覚だ。

「Sensiks.(センスィクス)」というオランダのスタートアップ企業が開発したSensory Reality Pod(センサリー・リアリティ・ポッド)は、体験者に新しい感覚的なリアリティを与える。公衆電話ボックスより少しくらいの大きさの箱に入ることで、VRを体験することができる。

Sensory Reality Podではどのような体験ができるのか?

よりリアルに。五感を刺激するVR体験『Sensiks.(センスィクス)』


筆者は2017年8月にドイツ・ケルンで行われたヨーロッパ最大のゲームイベントgamescom(ゲームズコム)に参加した。このイベントはゲームがメインのイベントではあるが、最新テクノロジーも体験することができる。VR体験もそうで、VRゲームはいくつかあった。

しかしSensiks.のブースは異様な雰囲気を醸し出していた。
個室のボックスに人一人がVR機器を装着しているのがガラス張りで見えるため、非常に人目を惹いていた。中にいる体験中の人はしきりに周囲を見回しており、時には驚いた反応をしていた。どのようなものか体験してみたかったため、筆者も行列に並んでみることにした。

よりリアルに。五感を刺激するVR体験『Sensiks.(センスィクス)』

VR体験中の筆者


Sensiksを体験するためには、箱の中に入ってタブレットをセットアップした後にヘッドギアを装着する。ボックスの中には人一人が座れるスペースがある。

スタートする前に係員がボックス内にあるタブレット端末を操作する。ここで体験する映像チャンネルや細かい設定を行っているようだ。

筆者はこのSensiksで以下のような体験をした。

・風景はどこかの街の中心地で、夜の設定なのかあたりは暗い。360度切れ目ない映像が広がっており、上を見上げると星を確認することができる。プラネタリウムで見るよりもリアリティがある。

・車のようなものに乗っている設定のようで、市街地の道路を走っていく。この際、涼しい風を感じてオープンカーで走っている感覚を体感する。

・やがて市街地を抜けて森の道に入っていく。ここでかすかな湿気を感じ、鬱蒼とした森の中で草木の香りを感じる。映像は完全にドライブをしているときと同じようだ。これがずっと続いていく。

・森をドライブしている途中で、火事が起こっているのを見つける。温度が上がったのを感じる。煙の匂いがする。視界が一気に火の色のオレンジ色になり、炎に包まれる感覚を覚える。

・森を抜けると、道がなくなり「落ちる」と思うと、眼下には森の木々を上から俯瞰している。車のようなものは空を飛べるようだ。そのまま空中飛行を楽しみ、しばらくして映像が終わる。

以下のリンクでは筆者が体験した映像を見ることができる。しかしこちらの映像では定点でしか映像を見ることができないため、臨場感は薄れている。

( 参考:Youtube IDGTV x SENSIKS. Sensory Reality Pods & Platform
https://www.youtube.com/watch?v=JxiZbHHnDH8)

VR体験が終わり、ヘッドギアを外すときに「もっと体験してみたい」と感じた。自分が体験したい世界をよりリアルに感じられる非常に優れた技術だ。

五感を刺激するカラクリ

Sensiksの五感を刺激するしくみはSensory Reality Podの内部にある。

視覚と聴覚はヘッドギアと内部にあるオーディオによって刺激されるが、触覚と嗅覚を刺激するものはこのボックスに取り付けられている機器から発せられる。

・温度:ヒーター
・香り:芳香器
・風:送風機
・光の明暗:ライト調節器
・音:オーディオ機器

これらの機器が映像の場面に合わせて微妙な調節を行いながらより感覚的なVR体験を可能にしている。もちろんタブレットでもこれらの調節が可能だ。



Sensory Reality Podで自分の好きな体験を選べる

ほとんどのVRは今のところ以下のような使われ方をしている。

・ゲームをはじめとした娯楽
・販売の分野でのシミュレーション
・技術を学習するための実践的な教材

これらはいずれも視覚と聴覚を刺激することによって得られる体験である。しかしSensiksでは、このほかに触覚と嗅覚を刺激することでよりリアリティのある世界に没入することができる。ビーチに行きたい、ジャングルに行ってみたい、あるいは、宇宙に行ってみたいと思えば、タブレットを操作するだけで自分の世界に行くことができる。Sensiks.にこのようなチャンネルがあるかは不明だが、もしあれば非常に面白い体験ができそうだ。

現実では受け入れられないことは多々起こるが、Sensiks.に自分のお気に入りの体験があれば、自分が望むだけその世界に没入することができる。


Sensiks.の発案者Fred Galstaun氏のアイデアとは?

AccentureがSensiks.の発案者Fred Galstaunにインタビューを行っている。Sensiksの発想は自身の経験からだったそうだ。

-インタビュアー:どのようにしてこのアイデアが思い浮かんだのですか?

Fred Galstaun: 昔、私は軽度のうつ病にかかっていました。うつの期間に休暇を取ったら、気持ちが楽になってストレスが減ったように感じました。そこで私は、毎回旅行の予約をすることなしに、この経験をある方法または別の方法でコピーできないかと考え始めたのです。このような気持ちを持つ人は私だけではないと思い、それが Sensiksの開発につながりました。


Sensory Reality Podはうつ病やストレスを軽減するためだけではなく認知症を患っている人、また障害のある人にも貢献できるとGalstaun氏は語っている。実際にヘルスケア企業のPhiladelphiaと合同の実証実験も行われており、3ヶ月Sensory Reality Podを利用した人間の脳は、利用しなった時と比べ心理的状態が大きく異なったと氏は語っている。オランダ応用科学研究所(TNO)も記事にまとめている。

Sensory Reality Podはいくらで購入できる?

気になるSensory Reality Podの値段だが、1台20,000ユーロ(1ユーロ130円で計算すると260万円)。イベント向けにレンタルサービスも行っているので、気になる人はSensiks.に問い合わせてみると良いだろう。

Sensory Reality Podは忙しい人や心理的にストレスを抱えている人、また身体的・精神的に障害を抱えた人などにとって「体験することでストレスを軽減する、また楽しみを与える」ことを可能にする。Sensiks.のSensory Reality PodはVRがリラクゼーションやレジャーとしても広がっていく可能性を感じさせる。