細胞シートを用いた消化器再生医療に向けて

国立がん研究センターの統計によると、男性では40歳以上で消化器系のがんの罹患が多く、女性も高齢になるほど消化器系のがんに罹患する割合が増加する――。

胃と小腸の間にあり、肝臓や膵臓からの消化液を受ける十二指腸は、他の臓器と比べて腸壁が薄い。そのため、早期がんを取り除く治療(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)後、約3割の確率で腸壁に穴が開く――穿孔は、膵液が腹腔内に広がり腹膜炎などを発症するため、緊急手術や十二指腸切除などの新たな処置が必要になり、患者の負担を大きくするという。


長崎大学とテルモは今年1月、消化管の再生医療分野で共同する「消化器再生医療学講座」を開設した。きっかけとなった「自己筋芽細胞シートを用いた消化器再生医療と腹腔鏡デリバリーデバイスの開発」は同大学の第3期重点研究課題の一つである。

今回、共同研究を行うテルモは、骨格筋由来の筋芽細胞シート作成の技術を有していて、重症心不全患者の心筋再生手術用「ハートシート」(保険適用)を販売。施設基準の届出がされている全国5病院で使われる同技術の、消化器分野への応用展開を視野に入れて新講座を支援する。

移植・消化器外科の教授らは、ブタ(大型動物)の脚から骨格筋由来の筋芽細胞シートを作製。ブタの十二指腸でESDを行いその外側から細胞シートを貼付する。移植で穿孔は生じなかった。細胞シートは自家細胞由来の絆創膏のような役割を果たす。つまり細胞シートがその組織に働きかける物質を出して再生を促進すると考えられ、このメカニズムと有効性は今後の共同研究で明らかにしていく予定だという。

内視鏡などを使った低侵襲の治療では、細胞シートを臓器まで届ける医療機器を要す。腹部に開けた1cmほどの穴からデバイスを入れ、十二指腸の外膜に細胞シートを貼ることでも、上記教授らは、同大学大学院工学研究科と共同で細胞シートデリバリーデバイスを開発研究しているという。