目指すはスマートヘルスケアシティ、医療IoT最新の取り組み 自治医科大学地域医療学センター地域医療情報学部門 講師 藍原雅一氏

IoTイニシアティブ2016「IoT・AI・ビックデータがもたらす破壊的イノベーションとビジネス革新」でのパネルディスカッション

自治医科大学地域医療学センタ地域医療情報学部門講師の藍原雅一氏が登壇し、全国に先駆けて実現を目指すスマートヘルスケアシティの取り組みが語られた。

藍原氏が所属する自治医科大学は医療に恵まれないへき地医療を推進するために昭和47年に47都道府県が共同して設立、学校法人によって運営されている。設立背景からも全国の各都道府県と密に連携できることもあって、「地域医療データバンク事業」が取り組まれている。どのようなシステムが構築されているのか、藍原氏がこのように説明した。

「患者の診療情報や生活情報、環境情報などを集めたシステムを作り上げています。何故それが必要かと言うと、日本は高齢化が進んでいるのにも関わらず、一人一人の高齢者に対する医療分析が不十分だからです。複合的な総合診療医療ができる医師が少なくとも7万人は必要ですが、現状は4000人ぐらいしかいません。数が圧倒的に足りていない状況を解決する方法としてあるのが、街の開業医に患者の状態を総合的に随時把握できるサービスです。そんな超高齢化社会の診療をささえるサービス『Jユニコ』の仕組みを作っています。」

藍原雅一氏

開発中の「Jユニコ」は次世代型の地域医療データバンクを代理機関と連携する仕組みが作られている。次世代地域医療データバンクには「入院情報」「外来情報」「検査情報」「投薬情報」「介護情報」「地域の特性情報/地域の気象情報」「ウェアラブル」などが集められ、それを総合的に解析し、代理機関を通じて、医師には個人の診療・検査履歴が提供される。またAIを応用した双方向対対話型システムによって疾患確率を診療時に計算するほか、家族に情報提供されることによって、生活習慣の改善やヘルパーとの情報共有にも活用することができる。さらに、大学や研究機関では地域医療情報から疾病の増悪予測や疾病の予防のための分析、感染症の感染経路の分析、漢方薬の使用頻度と有効性などが研究できる。当然ながら、行政では地域の医療情報と連携しながら高齢者の見守りに活用できる。

なかでも、AI診療システム「ホワイト・ジャック」の知名度が上がっているという。臨床推論を応用した計算処理によって、検査や処方リスト、疾患確率リストを作り出す。問診の状況に応じて何度でも疾患確率を瞬時に再計算することも可能だ。これにより、「医師の病名診断に気づきを与え、診断確定を支援できる」という。「ワトソンと比較されることが多いですが、目的は医師の診断プロセスを支援していくことです。へき地をはじめ外国人対応の医師がいないところでも活用されることが期待できます」と藍原氏は強調した。

藍原雅一氏

「Jユニコ」で実現できることは多岐にわたり、まとめると、医療機関のメリットには「入院や他院の診療データを共有することで、診療の質の向上につながる」「患者の診療履歴や生活情報から、患者の状況をタイムリーに把握し、診療に役立てることができる」「症状の進行化に伴う重症化を未然に察知し、予防が可能になる」「医療の均てん化につながる」などがある。患者のメリットには「質の高い医療サービスが受けられる」「医療機関が介護施設やヘルパーと情報共有することで、ADLの状態に応じた効率的な介護サービスが受けられる」「自分の健康状態を知り、健康を維持し病気の予防に役立てる」など。また行政機関のメリットは「全てのデータに位置情報と時間が紐づくことで、感染症や急性疾患の流行予測が可能になる」「ビッグデータの分析により、医療資源の分析や再配置、救急医療体制など、医療政策の立案に役立つ」「患者の診療履歴から、無駄な診療や重複した投薬・検査に加え、医療費の削減に役立つ」「位置情報の収集により、高齢者の見守りサービスに役立つ」が主なところ。企業・研究機関のメリットは「医療の質向上の研究のために、さまざまな切り口の分析データを利用できる「医療、検査、投薬など時系列データを分析することで、新しい医療機器や創薬など新しい市場の創出が期待できる」などだ。

さらに、全体を踏襲する4次元空間情報基盤データベース「Ai・View」の開発も進められている。空間情報が加わることで、画像で判断し、患者の動きを追っかけることができるため、痴呆患者の俳諧を見守ることなどに役立つ。多方面に運用もできる。観光、建設、災害の市街案内システムや外国人向け多言語案内システムなどにも応用が見込まれる。

いろいろな可能性がみえてくるが、一方で現状の課題についても藍原氏は説明した。

「問題になってくるのが個人情報の取り扱いです。ICカードを利用しながら個別同意によってデータを収集していますが、個別同意の段階で手間がかかってしまっているので、作業の効率化も課題にあります。地域全体が協力することも必要になってくるので、街ごとに提案していますが、100億円規模のコストを要するため、それを誰が支援できるのかということも課題にあります。」

目指すのは、健康で豊かなで活気ある持続可能な地域社会「スマートヘルスシティ」である。自治医科大学をはじめ、企業が参画するコンソーシアムを作り、熊本県・天草市において「スマートヘルスケアシティ」を全国に先駆けて実現するべく、実証実験が行われたことが報告された。

藍原雅一氏

最後に藍原氏は「医療はヘルスケアに移行しつつあります。病気になりにくい食材や健康を維持できる家づくりが理想のかたちです。在宅医療を進めるために、介護ロボットが導入されれば、在宅医療も進んでいくでしょう。医療の効率化が図れるわけですが、大きな問題はやはりコストです。財政面とデータ収集の解決が医療IoT成功のカギです」とまとめた。

2016年11月4日開催 IoTイニシアティブ2016 パネルディスカッション動画 ※ 2016年11月時の肩書きとなります。

モデレータはIPA・SEC(ソフトウェア高信頼化センター)所長の松本隆明氏。パネリストには、農業・食品産業技術総合機構の平藤雅之氏、LIXILの高田巌氏、自治医科大の藍原雅一氏にR・ソーレ氏が加わり、それぞれの分野でのIoTの取組み状況や課題について「情報共有」を行った。 データのプライバシー問題や安全性、イノベーションの可能性について幅広いディスカッションが行われ、来場者からも「大変勉強になった」という声が相次いだ。

パネルディスカッション動画
動画再生時間:73分16秒

Optimizing the Potential of IoT/AI/Big data for Disruptive Innovation
動画再生時間:73分16秒

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